『マンガの原理』を同人エンジョイ勢目線で読む

発売前から評判を聞いていた『マンガの原理』を買った。
ざっくりと目を通してみて、事前に目次で気になっていた部分をメインに思ったことをメモ。

ざっくり目を通した感想

個人的な結論としては、「ツイッター漫画が登場する前の商業連載誌ならそうなんだろう」という感じ。鵜吞みにせず盲信せず、自分の方向性と合致した部分だけ参考に取り入れるが良いと思った。

帯に『職業漫画家としてずっと食べていくために最も大事なもの』とあったが、私はただのエンジョイ漫画描きであり、「漫画なんかずっと描いててたまるか」と思っているので前提がズレている。このズレを忘れてしまうとメンタルによろしくないことが起こり得るから注意したい。

※ 細く長く耐久力のある職業漫画家を続けたい人にはとても合う内容だと思う

よかったところ:
漫画を描くとき既になんとなく気にしていた・やっていたこと、言ってしまえば特に目新しくはない内容もままあったが、その「なんとなく」が言語化されているところが良かった。内容を自分の言葉で消化できればネームで迷うことが減りそう。
もちろん新しく学べそうなことも多かった。

よくなかったところ:
昨今の風潮に合わせてなのかもしれないが、全体的になんだかやたら強い言葉を使っていると私は感じた。
「誰に向かって、どんな漫画を発信したいのか」を強く持っておかないと、今まで自分が描いてきた漫画が全部ダメに思えてくる。これってけっこう危険なのではないか。

気をつけないといけないと思ったこと:
著者陣のバックグラウンド的に、「紙媒体の月刊連載で何度も読み返せる(=消費されない)漫画」を前提とした内容だった。

ということは、例えばSNSの個人アカウントからバズるような漫画に求められるものとほぼ真逆では?と思う。SNSでの宣伝が肝になってくる個人制作の同人誌にしても、「バズる」までは必要ないにせよ近いことが言えそう。

『ヨコ1コマは原則禁止』について

自分のやりたいことが『紙媒体の商業連載』という前提に縛られるかどうかで変わる。
私の場合はガンガン使ってオッケー!!

この本の前提のような「雑誌で連載」の場合、1話当たりのページ数がシビアに決められている。ということは、話の進行や盛り上がりを考えながら決められたページの中に内容をギュッと詰めないといけない、ということになる。

そして、漫画文法の原則には「1コマに入れる情報は1つ」というものがある。どんなに大きなコマでもその中に入れられる情報は1つ。となると、大きなコマほど面積あたりの情報量は薄くなってしまう。

だから、使えるページ数が限られている中で、貴重な紙面をそんなに消費してしまって良いのか?ということらしい。

ここでの前提はB5判の紙雑誌で読ませる場合だから、コマを細かく割ることはさほど大きな問題にはならない。

でも私が作っているのはB6判の同人誌だし、SNSで宣伝するならサンプルをスマホで見る人もかなり多いはず。電子版で買ってスマホで読む人もいる。
この本が推奨する「1ページ7コマ」でコマ割りを作ると、画面が圧迫されて読みづらくなってしまう。

小さな画面で漫画を読んでもらうなら1ページあたり5コマ前後が適切だと聞いたことがあるし、私もそう思う。となると、むやみにヨコ1コマを縛る必要もないのではないかと感じる。

とは言ってもページを無駄に使っても読者がダレてしまうし内容も薄味になってしまいそう。
本には「ヨコ1コマはコマ割りの難しい技術が要らない」と書かれていたので、楽な方に流されていないか?という視点も持っていた方がいいかもしれない。

次頁に解説されている『1ページ1コマは原則禁止』も同じような理由で、1ページ丸ごと消費しても言うほどインパクトは出ないからそれなら思い切って見開きにした方がいい、ということだった。

見開きを使うのが今後の課題なので、これは覚えておきたい。

結論:『ヨコ1コマ』の落とし穴に注意、くらいには思っておきたい

『汗と照れ線は原則NG』について

実際に汗をかいていたり顔が赤くなっていたりするような写実的な表現としての汗や赤面はOK、とのこと。

ここでいう「汗と照れ線」とは記号としてのもの、コミカルなシーンによく登場する「漫符」のことらしい。

コミカルな場面で使うと効果的な漫符をシリアスな場面でも多用するとコミカルなノリまで持ち込まれかねない。それに、シリアスパートを描くときは「焦り」や「照れ」(あと「怒り」もだと思う)を漫符のような記号的表現で雑に済ませるべきではない。

……という主張っぽい。

じゃあ代わりにどうすれば良いの?については、私なら仕草とか動作とか表情プラス演技で表現するかな?と思う。

焦りの表情で汗を描いた方がより焦ってるぽくなるならそうするし、照れれば本当に顔が赤くなるから赤面させるし、心底怒ったなら血管も浮かせる場合だってあるさ。

気付いたら数ページにわたって全キャラ全コマで汗かいてる、みたいなことにならないようには気を付ける。

結論:記号的な漫符はシリアスパートと相性が悪い、くらいは覚えておきたい

その他メモ

コマ割りと構図のメリハリ

  • 大きなコマは前後で小さくコマを割ることで作られる
  • 大きなコマにはクローズアップ(寄り)、小さなコマにはロングショット(引き)

「フリ」「ウケ」と「めくり」

  • 「これどういうこと?」(フリ)→「ああそういうこと!」(ウケ)の連続で進める
  • 左下の「フリ」→次頁右上の「ウケ」の強度を高める=「めくり」を作る

アクションシーンについて

  • 短い時間の動きだけでもたくさんのコマが必要
    =会話シーンより時間の流れが遅い
  • カメラの向きは少しずつ変える(大きくても90度くらい)
  • 一つ一つの動作を1つずつのコマに描く
    例:剣を抜く→振りかぶる→振る動作(大ゴマ)

この記事を書き終えて改めて思ったこと

内容は高度で踏み込んだ内容、とても参考になる部分が多いけど、「全ての漫画に必須の心得」みたいな顔して「こうじゃなきゃダメ」「これやっちゃダメ」って言いきってる感が拭えないのがすごい残念……感じ方の問題か?

自分の作風とか方向性を既に分かっていて、ある程度漫画を描いてきた人には即戦力になると思う。面白い本だったことは確かです。

以上、終わり!